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マネジメントシステムはSDGsを管理する有力ツール

今はテレビでも 毎日のようにSDGsは取り上げられており、一年前と比べSDGsを取り巻く環境は大きく変わりました。以前の「SDGsの目標をISO9001(品質マネジメントシステム)で管理する」では、工務店を例にSDGsに取り組むメリットやISO9001で管理する意義について解説しましたが、今回はISO14001 (環境マネジメントシステム)を説明に加える等、前回とは異なった切り口でSDGs関連の解説を行っています。

Part1 SDGsと相性がよいのはISO14001だけ?

あらためてSDGsとは

 SDGsは「Sustainable Development Goals」の略称で、2015年に国連が採択した先進国を含む国際社会全体の2030年に向けた環境・経済・社会についてのゴールです。17のゴールのうち、少なくとも13が直接的に環境に関連するものであり、残り4も間接的ではあるものの、環境に関連するものです。すなわち、全てのSDGsは大なり小なり環境に関連しています(環境省 http://www.env.go.jp/earth/sdgs/index.html)。
 Sustainable Development(持続可能な開発)とは、「環境と開発に関する世界委員会」(通称:ブルントラント委員会)が1987年に公表した報告書「Our Common Future」の中心的な考え方として取り上げた概念で、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」のことを言います。

マネジメントシステムはSDGsに取り組む際の有効なツール

 マネジメントシステムとは、方針及び目標を定め、その目標を達成するために組織を適切に指揮・管理する仕組みのことです。国際標準化機構(ISO)が定めるマネジメントシステム規格は、規格に沿ったマネジメントシステムを構築する際に守らなければいけない事項が定められており、SDGsに取り組む際のツールとして活用することができます。
 マネジメントシステム規格は複数ありますが、SDGsの特性から次の二つが適しています。
 ・ISO14001 環境マネジメントシステム(EMS)
 ・ISO9001 品質マネジメントシステム(QMS)
 いずれも第三者(認証機関)による審査を受けて、認証を取得することが可能です。

ISO14001とSDGs

 ISO14001は、環境マネジメントシステムの仕様を定めた国際規格です。ISO14001の目的は、社会的ニーズとバランスを取りながら、環境を保護し、変化する環境状態に対応するための枠組みを提供することにあります。
 ISO14001:2015の序文には次のような記載があります。
ISO14001:2015 序文 0.1 背景
将来の世代の人々が自らのニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすために、環境、社会及び経済のバランスを実現することが不可欠であると考えられている。到達点としての持続可能な開発は、持続可能性(Sustainability)のこの"三本柱"のバランスをとることによって達成される。
 ISO(国際標準化機構)のウェブサイトでも、「UN Sustainable Development Goals - can ISO standards help? Yes!」と題して、ISO14001を具体的に挙げてSDGsの取組みをサポートすると紹介しています。
(参考)「ISO14001に関連するSDGsのゴールとターゲット」はこちら

ISO9001とSDGs

 ISO9001は品質マネジメントシステムの仕様を定めた国際規格です。ISO 9001:2015における品質マネジメントシステムは、よい製品・サービスを提供すること、及びそれを管理する組織の仕組みのことです。よい製品・サービスとは、法令等に適合し、顧客が要求する製品・サービスを提供することです。
 ISO9001:2015の序文には次のような記載があります。
ISO9001:2015 序文 0.1 一般
品質マネジメントシステムの採用は、パフォーマンス全体を改善し、持続可能な発展への取組みのための安定した基盤を提供するのに役立ち得る、組織の戦略上の決定である。
 これはSDGsの基本理念そのものであり、品質マネジメントシステムがSDGsの達成に貢献しうることを意味しています。
 品質方針をSDGsに関連するビジョンや使命と関連付け、品質方針と整合性のとれた品質目標を定めることによって、ISO9001で管理することができるようになります。

マネジメントシステム規格の基本的構造

 ISO14001及びISO9001の基本的な構造は、いずれもPDCAサイクルと呼ばれ、Plan(方針・計画)→Do(実施)→Check(点検)→Act(是正・見直し)というプロセスを繰り返すことにより、マネジメントのレベルを継続的に改善していこうというものであり、その基本的な流れは、下の図のようになっています。

ISO14001及びISO9001マネジメントシステムのモデル

 マネジメントシステム規格はテンプレートにより共通化されており、次表はISO14001とISO9001条文の基本骨格です。
ISO14001とISO9001の条文構成
1 適用範囲 7 支援
2 引用規格(該当なし)  7.1 資源
3 用語及び定義  7.2 力量
4 組織の状況 7.3 認識
 4.1 組織及びその状況の理解  7.4 コミュニケーション
 4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解  7.5 文書化した情報
 4.3 環境/品質マネジメントシステムの 8 運用
  適用範囲の決定  8.1 運用の計画及び管理
 4.4 環境/品質マネジメントシステム(及び 9 パフォーマンス評価
  そのプロセス)  9.1 監視,測定,分析及び評価
5 リーダーシップ 9.2 内部監査
 5.1 リーダーシップ及びコミットメント  9.3 マネジメントレビュー
 5.2 方針 10 改善
 5.3 組織の役割、責任及び権限針  10.1 一般
6 計画  10.2 不適合及び是正処置
 6.1 リスク及び機会への取組み  10.3 継続的改善
 6.2 目標及びそれを達成するための計画策定

ISO14001でも顧客重視の視点は必要

 ISO14001とISO9001の大きな違いは、ISO14001は「望まないものや悪影響があるものを排除していく」のに対し、ISO9001は「顧客が望むものを提供する」ということです。
 ISO9001:2015の 6.2.1 品質目標では、「顧客満足の向上に関連していること」を求めています。この他にも顧客満足に関する要求事項は規格の随所に登場します。
 一方、ISO14001:2015の6.2.1 環境目標では「環境側面を考慮に入れて環境目標を確立しなければならない」と定めているだけで、顧客満足に関する要求事項は規格のどこにも出てきません。
 ISO14001とISO9001にはこのような違いはありますが、持続可能な開発は顧客の理解と支持があってこそ達成しうるものです。SDGsは中長期的な社会的課題解決の取組みなので、ISO14001といえども顧客重視の視点は欠かせません。

Part2  SDGsをマネジメントシステムで管理する

SDGsの取組み方

 GRI、UNGC及びWBCSDは、2015年にSDGsの企業行動指針として「SDGコンパス」を作成・公開しています。日本語版はこちら
 本指針では、企業が SDGs に最大限貢献できるよう5つのステップを提示しています(次図参照)。

 また、環境省は、2018年に「すべての企業が持続的に発展するために -持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド-」(以下、環境省 SDGs活用ガイド)を作成・公表しています。本ガイドでは、PDCAサイクルに基づく具体的な取組みの進め方を解説しています(次図参照)。

 「SDGコンパス」や「環境省 SDGs活用ガイド」はSDGsを導入するに当たっての言わば指南書です。これからSDGsを導入される場合は、これらのステップや手順に記載されている内容が大いに役立つと思われます。

SDGs導入ステップとマネジメントシステムの関係性

 「SDGコンパス」や「環境省 SDGs活用ガイド」の基本的構造は、どちらもPDCAサイクルであり、ISO14001/ISO9001と多くの類似点があります。次表は環境省SDGs活用ガイドとマネジメントシステム規格の対比を示したものです。  
 
  環境省SDGs活用ガイドとマネジメントシステム規格
環境省 SDGs活用ガイド ISO14001:2015/ISO9001:2015
取組の意思決定 手順1:話し合いと考え方の共有
 1) 棚卸の進め方
 2) 経営者の理解と意思決定
 3) 担当者(キーパーソン)の決定とチームの結成
PLAN
(取組の着手)
手順2:自社の活動内容の棚卸を行い、SDGsと紐付けて説明できるか考える
 1) 棚卸の進め方
 2) 事業・活動の環境や地域社会との関係の整理
 3) SDGsのゴール・ターゲットとの紐付け
4.1 組織及びその状況の理解
(外部及び内部の課題)
4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解
4.3 マネジメントシステムの適用範囲の決定
6 計画
6.1 リスク及び機会への取組み
6.2 目標及びそれを達成するための計画策定
DO
(具体的な取組の検討と実施)
手順3:何に取り組むか検討し、取組の目的、内容、ゴール、担当部署を決める
→取組の行動計画を作成し、社内での理解と協力を得る
 1) 取組の動機と目的
 2) 取り組み方
 3) 資金調達について考える
5.2 方針
5.1 リーダーシップ及びコミットメント
5.3 組織の役割、責任及び権限針
7 支援
7.1 資源
7.2 力量
7.3 認識
8 運用
8.1 運用の計画及び管理
CHECK (取組状況の確認と評価) 手順4:取組を実施し、その結果を評価する
 1) 取組経過の記録
 2) 取組結果の評価とレポート作成
9 パフォーマンス評価
9.1 監視,測定,分析及び評価
7.4 コミュニケーション
ACT
(取組の見直し)
手順5:一連の取組を整理し、外部への発信にも取り組んでみる
→評価結果を受けて、次の取組を展開する
 1) 外部への発信
 2) 次の取組への展開
10 改善
10.1 一般
10.2 不適合及び是正処置
10.3 継続的改善
7.4 コミュニケーション
A&Aゲートウェイにて紐付け

マネジメントシステムにSDGsを取り込むメリット

課題やリスク分析における気付き
 ISO14001:2015及びISO9001:2015では、箇条6でマネジメントシステムの計画に当たって、外部及び内部の課題を明確にし、リスク及び機会を決定することを求めています。ツールとしてSWOT分析等が用いられたりしますが、SDGsを企業活動に取り込むことによって新たな気付きを得られることが期待できます。例えば、次図は「環境省 SDGs活用ガイド」に掲載されている企業の取組内容とSDGsとの紐付け早見表です。紐付けをすることによって、強み・弱みを知るきっかけになりますし、経営リスクや将来のビジネスチャンスとして捉えることによって、次の戦略に活かすこともできます。

出典:https://sdgcompass.org/wp-content/uploads/2016/04/SDG_Compass_Japanese.pdf

 
新たな発想で目標設定
 「SDGコンパス」によると、現在を起点として目標を設定する「インサイド・アウト・アプローチ(内部中心的なアプローチを取る今日的なあり方)」では、世界的な課題に十分対処することができないとしており、社会的・世界的な視点から何が必要かを検討し、それに基づいて戦略上のビジョン・目標を設定する「アウトサイド・イン・アプローチ」の採用を提唱しています。

出典:https://sdgcompass.org/wp-content/uploads/2016/04/SDG_Compass_Japanese.pdf

 複雑化・多様化した社会課題が存在する今日、個々の課題に個別に対応するだけでは十分ではなく、こうした新たなアプローチから事業戦略を検討できるのもマネジメントシステムにSDGsを取り込むメリットの一つです。

SDGsのKPI設定から学ぶ
 古い格言に「測定できるものは管理することができる」というのがあります。ISO14001:2015及びISO9001:2015では、箇条9 パフォーマンス評価で、監視、測定をし、分析・評価することを求めています。
 SDGsにおいては、達成に向けた進捗状況を定量的・定性的に計測するために230以上の指標が国連統計委員会により提案されています。
 また、SDGコンパスのウェブサイトhttps://sdgcompass.org/business-indicators/(検索画面は英語)で、取組み企業のSDGターゲットに対応する事業指標(日本企業は日本語あり)を登録・公開しています。最近では多くの企業がHP上でSDGsに対する取組みの進捗状況を公開しているので、企業名とSDGsから検索してどのようなKPIを設定しているかを学ぶのも一方です。
 SDGsから学んだことを活かしてすぐれたKPIを設定することができれば、マネジメントシステムで策定した計画の進捗状況を、有効的かつ効率的に管理することができます。
 ご参考までに「これからの工務店経営とSDGs(持続可能な開発目標)」(一般財団法人日本建築センター発行)から、工務店の取組み状況を測定するための指標をいくつかピックアップしてご紹介します。
ゴール
取組み状況を測定するための指標
単位
F☆☆☆☆(ホルムアルデヒドを発散する建材の最上位等級)対応製品使用率
育児休業取得率
BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)表示率
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)建設割合
年間総二酸化炭素排出量
kg

SDGsをマネジメントシステムで管理する意義

PDCAの確実な推進
 ISO14001:2015及びISO9001:2015では、あらかじめ定められた間隔で、箇条9.2では内部監査を、箇条9.3ではマネジメントシステムのレビューを行うことを求めています。
 SDGsで策定した経営計画の進捗状況は、設定した指標を用いて計測・評価します。計測・評価を実施した後は、計画の策定時や前回フォローアップ時の結果と比較して考察します。この結果を踏まえて、必要な場合は目標や指標の見直しを行います(箇条10.2 不適合及び是正処置)。
 指標を用いて進捗管理をする作業は継続して発生するため、マネジメントシステムに組み込んでルーティン化しておくと後々の負担が軽減されます。
 「SDGコンパス」ではこうした活動は具体的には示されていないので、SDGsをマネジメントシステムで管理することにより、確実にPDCAを回すことができます。

マネジメントシステム認証との相乗効果
 ISO14001:2015又はISO9001:2015でマネジメントシステムを構築した場合、外部の機関に証明(第三者認証)を依頼することが可能です。第三者の客観的評価は、組織に適度な緊張感をもたらし、目標達成に向けての取組みをより確実なものとします。
 また、認証を取得することによって、
  ・消費者や社会からの信頼獲得
  ・ブランドイメージの確立
等の効果が期待できます。
 SDGsとマネジメントシステム認証との相乗効果で対外的なイメージが向上し、その結果として新たな事業機会の創出や競争力強化につなげることができます。

最後に

 バイデン政権が誕生し、今年2月に米国は地球温暖化対策の世界的枠組みの「パリ協定」に正式復帰しました。我が国も2050年までに脱炭素社会の実現を目指すと宣言しています。環境負荷の低さを取引先の選定や購入の基準とする「グリーン調達」の動きは、今後さらに加速するでしょう。
 投資の意思決定においても環境・社会・ガバナンスを重視するESG投資が広がりつつあります。社会に対してどのような価値を創造しているかを問う CSV(共通価値の創造)も重要な要素となっています。
 こうした環境・社会の変化は、企業にとってリスクであると同時にチャンスでもあります。マネジメントシステムは、企業が持つSDGsに対する潜在的な価値を引き出す可能性を持っています。是非、有力なツールとして活用して頂きたいと思います。

2021-04-23