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「企業文化に対する監査」について考える(その1)~ヒヤリハット事例で学ぶ監査の着眼点~

 2022年1月8日付で、企業価値向上のヒントに「「企業文化に対する監査は重要」たとえそれが明示的にではなくても」をアップしました。今回はその続編です。前回(1/8)の記事の中で、企業文化に対する監査の具体的なやり方の例を二つ挙げました。
 一つは、問題が起きた時に公開される第三者委員会報告書等から得られた知見を監査に活かす方法です。
 もう一つは、ヒヤリハット事例を収集し、ヒヤリハットの段階で真の原因を追究することを通じて企業文化や企業風土に問題がないかを洞察する方法です。ここでいうヒヤリハットは労働災害のようなヒヤリハットではなく、大事には至らなかった顧客からのクレームや失敗等です。
 前者は類型的に整理をした上であらためて取り上げたい思います。今回は、今日(2/2)の日経新聞の経済・政策面に掲載された記事を用いて後者の解説をしたいと思います。

 新聞記事は記者がどう受け止めたかをまとめたものなので、すべての情報が網羅されているとは限りません。この記事はあくまでも日経新聞が報じた内容をベースに意見を展開していることをあらかじめお断りしておきます。
 日経新聞の記事の見出しは次のとおりです。
  統計誤掲載、3日間放置 経済産業省 システム更新影響か

 記事の内容は次のとおりです。
■事象
・2021年12月の商業動態統計速報を1月28日夕から経産省のホームページに誤って掲載していた。
・1月31日公表の予定だったが、3日間にわたりミスを放置していた。
・原因は調査中だが、省内の情報システム更新の影響で一部ページが即時公表されていた可能性がある。

■発覚の経緯等
・誤掲載は外部からの連絡で発覚した。
・公表予定時間の31日午前8時50分の40分前の午前8時10分ごろに(商業動態統計が)ホームページに載っていると指摘があった。
・その後の調査で、28日夕から掲載されていたと判明した。
・事前に載ったのは統計資料すべてではなく、全国の小売業や卸売業の販売額の合計といった概況を示す資料などだった。
・経産省は1月に省内の情報システムを切り替えた。
・政府統計は公表に向けてタイマーを事前に設定し、予定時間に自動で掲載する方式をとるのが一般的。
・新システムは旧システムとは別の手順を踏まないと即時公表されるしくみだったようである。準備作業をした28日夕にそのまま掲載されたとみられる。

 気付いたのが公表予定時刻の40分前とありますし、3日間放置されていても大きなニュースになっていないので、まさにヒヤリハットの類と言ってよいでしょう。冒頭にあるように原因は調査中ということですが、新聞記事はさらに次のように続きます。
新システムでの公表手続きの注意点が職員に十分伝わっていなかった可能性がある。
・担当大臣は「自分のページがどうなっているか見る人がいないのかと厳しく指導した。大いに反省して、今後こういうことがないようにしたい」と話した。

 商業動態統計は経産省が毎月公表している資料なので、これまでは準備をしただけで公表されたということはなかったと考えられます。自分のページがどうなっているか見ていなかったことを厳しく指導したとありますが、(防止策としては有効だとしても)原因に基づく適切な対策とは言えないと思います。やはり根本的な原因はシステム更新時の部署間連携に問題があったと考えるのが妥当です。省内の情報システム更新による影響範囲の調査漏れや、考慮漏れの可能性もあります。
 記事では、情報を伝える側に問題があった可能性について触れていません。新聞記事だけではわかりませんが、もしかすると統計担当者は説明の機会も十分に与えられなかったかもしれません。企業文化に対する監査を行うときは、こうした穿った見方も必要だと思います。いずれにせよ原因をしっかり調査し、対応の適切性を検証することが重要となります。

 企業文化に対する監査の観点で、このヒヤリハット事例から学ぶべき着眼点を以下に整理しました。
①原因分析は担当者も交えて自由闊達に議論できているか
 担当者の目線からみた原因分析は貴重です。加えて担当者を委縮させるのではなく、人材育成の観点からも当事者の参加は重要です。
②真の原因に基づき適切な対策が講じられているか
 原因特定に漏れがあると、対策が不備となり、将来の大きな事故につながる可能性があります。
③指導は真の原因に基づきフェアに行われているか
 指導がフェアでないと担当者のモチベーションに影響します。
④対策は担当者への注意喚起に留まっていることはないか
 担当者に対する注意喚起や指導だけでは、担当者が変わるとまた同じことが起こってしまいます。軽微な事故の時点で対策を「しくみ」として管理の中にしっかり組み込むことによって、将来の大きな事故を防ぐことにつなげることができます。

 ヒヤリハット事例については、それが発生したときに適切に記録されていることも重要です。その記録をもとに上述したような成熟した管理が行われているかどうか洞察することが、企業文化に対する監査の第一歩になると考えます。

2022-02-02